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★Nana Side

扉を開けて立っていたのは、10代前半くらいの背の小さな女の子。まるで等身大のビスクドールみたいで、その表情はかたい。

「あなたは……?」

リサちゃんが慌てて近づこうとする中、私はその場に立ち止まったまま静かに尋ねた。

「ずいぶんと時間がかかってしまった。な。私は長らく地下に封印されていた国産ヒューマノイド 「自律電人四六型」・・・あの人はしむ、と読んでいた。それが私の名だ。な。」

「しむちゃん、っていうのね?」

リサちゃんは小さな子をあやすかのように、視線を合わせる。

「私は、1946年に製造された……」

……ぬいぐるみに話しかけられた時ほどは驚かない。それにその発言に信ぴょう性をもたせるものが、このお店にはある。

「わーー! しむちゃんだーー!」

突然のベルに咄嗟に隠れた3匹が姿を現す。普段のんびりしているだいごろうの尻尾が勢いよくぶるんぶるんと左右に振れていることをみると、彼女の来訪がよっぽど嬉しいんだ。3匹は少女を取り囲むように、その周りを飛び回っている。

「元気だったんだねー♪」

「突然姿をみせなくなるから、僕たちも、あの方も随分心配したんですよ」

「お姉ちゃんに会いたい。どこに、いる?」

その質問に、それまではしゃいでいた3匹の動きが止まる。彼らが「あの方」と呼ぶのは、このお店を彼らに託したという魔女だ。この街をもっと笑顔の溢れる街にしたいと願いながらも、ある日姿を消したと聞いている。「会いたい」と頼まれても、彼ら自身会えずにいるのだから、叶えられないということなんだろう。

「……あの人は……ここには……いないの」

こたろうでさえも口をパクパクさせるだけで、何も言えずにいるのがかわいそうで、代わりに私が口を開けた。

「え……」

さっきまであまり感情を表に出さなかったのに、今ははっきりと寂しさをあらわしている。それは母親に置いて行かれた幼い子どものようにみえた。

終戦後間もない1947年に、どうやってこのような義体(ヒューマノイド)が作られたのだろう?外見は完璧に人間そのもの。いや人間離れした美しさを持っている。透明感がある肌には血が通う感じは受けるけど、現実というより、まるで綺麗な絵をみてるみたい。頭につけているアクセサリーみたいなのは氏、真空管?ぼんやりとちいさな灯りが灯っている。

私たちよりも若い外見をしているのに、70年近くも長らく地下に封印されていて目覚めたというのであれば、彼女には時間の経過が理解出来てない。それより、人の「死」という概念ももしかしたら存在しないのかもしれない。私は、しむに近づき、理沙ちゃんと同じように身をかがめた。

「あ、あのね、私あったことないけど…わかるんだ。あの人もしむちゃんのことをとても大切に思ってたんだにゃ」

「……」

「うん。だって、ほら」

私は壁にかけられた1枚の写真を指さす。

それは、しむちゃんと「あの人」が映った写真。お店のレイアウトを決めている時に、めめたちが真っ先に置いたものだ。

私たちもお店の創業者と聞いているから、彼女たちの好きなようにさせ、今では1番目立つところに置かれている。

彼女が1947年から来たことを真実だと物語る写真――。白黒の写真に、私たちと同世代くらいの女性とともに、彼女が映っていたのだ。最初は似ているだけかとも思ったけど、彼女が嘘をついている様子はないし、おそらく本人なのだろう。

「だから、きっときっと…あの人もしむちゃんに会えなくなって寂しがってるんだにゃ」
置いていったわけじゃない、本当はずっと傍にいたかったけどそうできなった、私は彼女を慰めるつもりでそう告げた。無言でうなずいた彼女は、きっと私の気持ちを受け止めてくれたんだろう。
そして、彼女は語り始めた。


しむが魔女と出会ったのは、1947年4月のことだった。
太平洋戦争時、帝都高速度交通営団に所属していた天才科学者が、軍部と共同で、終戦直前に自律電人 (いわゆるヒューマノイド) を生み出した。

自律電人はあまりにも先駆的な技術(燃料電池、小型モーター、電子脳など)を用いて作られ、唯一その科学者しか製造どころか理解すらも出来ない代物だった。

軍部はその突出した技術をつぎ込んだ試作品に、科学者はもしかして未来人なのではという噂まで? たった。
結局試作機は量産化の足がかりも不可能となり計画は止まった。そして日本は終戦を迎えた。

科学者は、これからの時代において平和を築くためのサポートとして電人を完成形にする。四六型(しむ)は ラジオ、テレビに変わる新しい情報網、今で言うインターネットに近いシステムの移動型サーバーとしての役割があった。元々は軍事利用で、戦地に移動して通信網を確立する理由があったのだが、戦争が終わり、今後は平和利用として役立たせたいと願ったのだ。

しかし、しむの電脳回路に多数のバグが発生、自分の戯言を電波に乗せて飛ばすなどの奇行が目立ち、日々修正を行っていた。

高度な人工知能を搭載したしむはまるで自我があるかのように好奇心が旺盛で、研究所を何度も抜け出して当時研究所があった秋葉原の街を歩いて回った。

「おう、今日はりんごが安いよ!」
「りんご?なんだ、それは。新しい兵器なの、か?壊さないと…」
「…?!?!うわぁ、なんだこれは…声が頭に響く…ぅっわああああ」
しむは、電磁波を操ることができた。時にそれは、脳内に大声を響き渡らせるくらいの強力な洗脳電波ともなる。
秋葉原の青果市場でくだものを売っていた男性は、頭を抱えて大声を出して逃げていった。
地面にはりんごが2つ。
「これは、なん、だ?」
しむが手に取ると、力加減がきかず、りんごが簡単に割れてしまった。
「……。」
それを見ていた街の人々は、不審な顔でしむを見つめた。

「なにあの子…人間じゃないみたい」

「怖いな・・・戦争の兵器人間か?!うわぁ、あっちにいけ!近づくな!!!!」

終戦直後、人々はみな着の身着のままなな格好なのに、まるでお人形のような綺麗なビロードの洋服を身に付けていたのも周囲から浮いていた。

ガンッ……!ラジオの部品を扱う露天商の男性に壊れた部品と真空管が投げつけられたが、しむはビクともしなかった。

ふと周りを見ると、髪の毛を2つリボンで結んでいる少女たちが楽しそうにかけまわっていた。

「………?かみのけがじゃまだからこう、しようか、な。」

しむは少女の真似をして、自分の髪形を2つに結び、頭に真空管を2つ、飾った。

「………」

しむは、毎日研究所の試験の合間に青果市場の近くで人を見ていた。人との接し方もわからず、ひとりぼっち。そうするうちにあまりに高性能な電子頭脳はしむに「感情」という概念を育てていった。

そうして得た気持は孤独という感覚を覚えてしまった。
ある日、また研究所を抜け出して秋葉原の街を歩いた。闇市は盛況で人々は忙しそうに行き交う。

雨が降ってきた。頭の真空管が大きく光り、壊れそうな音を立てる。
そんな時、大きな男性物の黒い傘を持って現れた女性がいた。

「…ねぇ、風邪ひくわよ。」

秋葉原の街で初めて、話しかけてくれたのが「お姉ちゃん」だった。

「時々見る娘ね。いつも何をしているの?」
優しい口調で話しかけられて、電子頭脳よりもっと下、メインジェネレーターが内蔵された胸の辺りがぽっと暖かくなるような感情が涌いた。自分でも初めてする表情「微笑み」が起こった。

「私は自律型電人四六型、略称はしむで、す。」
「なになに、面白い子ねあなた。そしてとても可愛いわね」

青果市場で働いていたその女性は、お昼頃になると、いつも研究所を抜け出したしむのもとへと訪れ、お話をして帰っていくのが日課になった。

「あなたは…」
「あなたはやめてよ!お姉ちゃんでいいわ」
「お、おねえ…ううん。」
しむが恥ずかしそうにうつむく。
「お姉ちゃん!」
「お、お姉ちゃんは…なぜ秋葉原に、いる?」
「私はこの街が好きなのよ。戦争がやっと終わって、みんなで力を合わせて今度はこの街を元気にしていきたいって思ってるの」
「元…気?」
「やりたいこととか、楽しいことができない日が終わったから。これからこの街はどんどん人が来る場所になって、そうしたら私も好きなことができるようになる。そしたらやりたいことがあるのよ」
「……お姉ちゃんの、やりたいこと…ききたい、な。」
「そうね…きっとこれから何十年後…この街は若くて、可愛い女性が活躍する街になるわ」
「…?なぜわかる……?」
「ふふふ。なぜかしらね。夢で見たのよ。私は喫茶店を作るの。そこで、可愛いお洋服を着た女の子達がね、沢山のこの街に訪れる人を笑顔にする。みんなほっとして元気になれる…そんな不思議な魔法のかかる喫茶店をひらくのよ」

「………きっさてん?」
まだこの街にはそんな喫茶店はなかった。あったのかもしれないけれど…しむには知ることはできなかったし、今は街の人たちもとっても忙しそうで、若い女性が集まって、可愛い恰好をして楽しく笑顔で接客するお店など…想像できなかった。 「女の子の笑顔には人を幸せにする力があるのよ」
「予知ができるの、か?…まるで魔女みたいだ。な。」
「えっ!なにそれ?!魔女って面白いわね!!!それじゃぁ、喫茶店で働く女の子たちは、魔法使いかしら?!」
「お姉ちゃん……話が、進みすぎ、だ。」
「そうね、使い魔が必要よね………かわいいぬいぐるみの使い魔。しゃべったらかわいいわね!うん!かわいい」
「………。」

「女の子の笑顔には人を幸せにする力があるのよ」
それが彼女の口癖だった。
しむ自身、彼女の笑顔で変わっていく自分自身を感じていた。だから、しむは彼女のことが大好きだった。いつもそばにいたい、と願っていた。
けれど、ある日、突然その願いは叶わなくなってしまう。

出会いから8か月後、万世橋地下深くにあった研究所の巨大冷凍庫にしむは封印されてしまったのだ。
その直前、彼女はまた自分たちの未来を予知したかのように不思議な言葉を残した。


『きっと未来でわたしと会うから。どういう形になってるかわからないけれど、ね』

☆ Risa Side

私もナナちゃんも黙ってしむちゃんの話に耳を傾けた。
だいごろうは、その当時のことを思い出したのか、涙を流している。
「ある日突然姿を消した」、めめたちはそう言っているけれど、それはつまり亡くなったことを意味しているんだろうと感じていた。

彼らのような使い魔を呼び寄せることができた魔女が人間だったとは思わないけれど、私たち人間と同じように感情を持ち、暮らしていたのだから、人間と同じように寿命があっても不思議ではない。
だから、だいごろう達はどれだけ魔女に再び会いたいと願っても会えないんだ。魔女の生きていた頃を思い出させるしむの登場にあれだけ喜んだ意味が今わかった気がした。

「しむちゃん、このお店、見てみる?」

私は、大切なお客様にお店を案内しようと提案した。

「うん、そうするにゃ!」

ナナちゃんが満面の笑みを浮かべて、その小さな手を優しく握る。私もまたその手を握り、中へと入っていく。
3匹も嬉しそうについてきた。魔女が見せたかっただろう、カフェの中。そんな店内をしむちゃんは目を輝かせて見ていた。

「お姉ちゃんはこんなお店を作りたかったんだね」

先ほどまでの無表情から想像もできないくらい笑顔で無邪気に喜ぶその姿はとても可愛らしかった。ひととおり店内を見て回り、戻ってくると、しむちゃんの足が止まった。
首を少し上げ、一点をじっと見つめている。見つめているのはあの写真がかけてある場所だった。

「どうしたの?」
「……お姉ちゃんがいる…」
「え?」
「お姉ちゃんがいる。んだ。」

聞き間違いではなく、しむちゃんははっきりとお姉ちゃん、つまり魔女がいると告げた。

「……ありがとう、って……そう言ってる。すごく嬉しい、って」

誰かの言葉を伝えるかのように、ゆっくりと口にする。

「ほんとうに?」

信じられないといった様子で、こたろうが問う。

「うん、本当、だ。お姉ちゃんが笑ってる。な。」
「っ! 頑張るから! 私たち、ちゃんとお店を守って、笑顔でいっぱいにするから!!」

どこにいるのか必死に探すけれど、私にも、まためめたちにも、魔女の姿は見えない。でも、めめはその写真を見つめて、叫んだ。ずっとずっと伝えたくて、伝えられなかった言葉を。

「わかってる、って……。任せた、って……」
「僕だって頑張る!」
「だから、安心してください!」

今度はだいごろうだけじゃなくて、めめやこたろうも大粒の涙を流していた。

「お姉ちゃん、いたんだ。な。ずっとこのお店で待っていてくれたんだ」

しむちゃんも涙を流した。そのとき、ナナちゃんが私に視線を送ってきた。言いたいことはわかっている。だから、私も笑顔で頷いた。

「今日は、しむちゃんも一緒に、ね。」
「……いいの?」
「もちろん!オープンの日なんだから!忙しくなるから人手が必要なの♪」

私も笑顔でそう答える。しむちゃんは人間ではないと言っていたけれど、うれしそうに笑う顔と、涙は人間の女の子のようだった。

「さて、オープンするよ! めめたちは早く隠れてねー!」
「今日は記念すべきオープン!」
「うん!」

私たちの夢、めめたちの夢、しむちゃんや魔女の夢。多くの夢の詰まったカフェ「Akicafe」。はてさて、これからどうなっていくのか――。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

ゲストキャラクター しむ From 秋コレ
★http://akicolle.com/shimu
※あくまでフィクションの設定です。公式の設定とは関係ありません。

原作 秋葉るき
小説 村島モモ
編集 まどり